不動産の相続
遺産としての不動産の特徴
遺産としての不動産の特徴
価値が大きい一方で現物分割が難しい
不動産は価格が大きくなりがちで、遺産の大部分を占めることが多いです。他方で、不動産は、現物を分けることが難しいため、不動産が遺産に含まれている場合は遺産分割における合意形成が困難になることがあります。
客観的価値の評価が難しい
不動産は「一物四価」や「一物五価」という言葉もあるとおり、必ずしも不動産の時価の基準となる客観的な基準が当事者間に明らかではありません。厳密な評価を行う場合は不動産鑑定士による鑑定評価を依頼することになりますが、鑑定書の作成には数十万円ほどかかる上に、不動産鑑定士による時価の算定にも大きなばらつきが見られることも実務ではよくあります。
不動産の価値の客観的な算出は非常に困難であり、その価格の大きさともあいまって、相続問題を複雑にします。
法律関係が複雑
不動産を巡る法律関係は複雑になりがちです。たとえば、不動産にはローンの抵当権が設定されていることが多いです。第三者に賃貸に出されていることもあれば、相続人の一部が現に居住していることもあります。また、相続人ではない方との共有になっていたり、土地と建物で所有者が異なっているケース(たとえば、親の持っている土地に子どもが建物を建てると、土地と建物で所有者が異なることになります)もあります。権利関係の錯綜する不動産について、適切な遺産分割方法を探求することは容易ではありません。
関係者の利害や思い入れが強いことが多い
不動産は人の生活や事業の本拠となるものですから、関係者は強い利害関係を有することが多いです。また、相続人によっては、遺産である不動産は長年住み慣れた特別な思い入れのある不動産であることも少なくなく、利害関係の調整は困難を極めます。
不動産の遺産分割の方法
ありうる分割方法
現物分割
現物分割とは、個々の財産の形状や性質を変更することなく遺産分割を行うものです。たとえば、土地を分筆してそれぞれが取得したりするような場合です。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上で、他の相続人に対する債務を負担させる方法のことです。たとえば、AとBの法定相続分がそれぞれ2分の1ずつ、遺産として1億円の価値の不動産があるとする場合に、Aの不動産を取得させる代わりに、AからBに対して、代償金5000万円を支払うことにするというような場合です。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却して、換金した上で、価格で分配する方法です。先の例でいえば、不動産を1億円で売却し、AとBとで5000万円ずつを分けるという方法です。
共有分割
共有分割は、遺産を相続人で共有取得する方法です。相続人間の共有状態が残るので、根本的な解決にはならず、後日紛争に発展する可能性が残ります。
分割方法の選択
どの手法により不動産の遺産分割を行うべきかについては、対象となっている不動産を巡る権利関係や評価額を総合的に勘案し、最も有利な分割方法によることを主張することになります。
裁判所においてどの分割方法が選択されるかについては、一般的には以下のような傾向で検討します。
①まず、代償金の支払いにより不動産を取得する者がいる場合には、代償分割の可能性が模索されます。不動産を取得する者が客観的な不動産価額に当該相続人の相続分を乗じた金額を支払う資料があるか、代償分割を行うことが相当であるか等が検討されます。
②代償分割ができない場合には、現物分割の可能性が検討されます。物理的に現物分割ができない場合や、現物分割することによって著しい価値の減少が生じる場合は、現物分割は選択されません。
③現物分割も適切ではない場合には、換価分割が選択されます。
④共有分割は、現物分割、代償分割、換価分割が困難な状況にある場合に選択されるべきとされています(大阪高決平成14年6月5日(家月54巻11号71頁))。すなわち、共有分割の優先度は最も低いです。
配偶者居住権という新しい制度
令和2年施行の改正相続法によって、不動産を巡る相続に関する制度として、配偶者居住権の制度が新設されました。配偶者居住権は、不動産を巡る相続において、非常に重要な制度となります。
配偶者居住権とは、亡くなった方(被相続人)の配偶者が相続開始時(被相続人がなくなった時点)に被相続人の所有の建物に居住している場合に、配偶者に、その建物について、遺産分割、遺贈又は死因贈与によって、配偶者居住権という新しい権利を取得させることを認めるものです。従来、相続において住み慣れた住居の取得を希望すると、不動産の価格は高額のため、不動産を取得するとそれ以外の財産(特に預貯金等の流動資産)を十分に取得できずに生活に困窮するという問題がありました。配偶者居住権は、パートナーに先立たれた配偶者にとって、住み慣れた居住環境での生活を継続するために居住権を確保しつつ、その後の生活資金としての預貯金等の財産についても一定程度確保したいというニーズに対応するものです。配偶者居住権は、原則として配偶者の終身の間、不動産に居住できる権利ですが、所有権そのものではないので、相続において不動産自体を取得するよりも低廉な価格での取得が可能になります。
配偶者居住権の制度が新設されたことにより、相続における不動産の取扱いについて、より柔軟な処理が認められるようになりましたので、これまで以上に事前の相続準備が重要になります。
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