2. 2分の1ルールの修正の可能性
財産分与の割合は、原則として2分の1とされています。原則2分の1であり、例外的に財産形成への寄与度の差が大きく、差を考慮しないと実質的に公平とはいえない場合にのみ割合が変更されます。
実務的には、財産分与の寄与度の割合が修正されることはほとんどありません。たとえば、共働きで収入に差があっても分与割合に影響しないことがほとんどです。また、専業主婦のケースでも、稼働する夫が収入を得られるのは他方の家事労働や育児に支えられているからであるといえるので、財産分与の割合は2分の1とされることがほとんどです。
しかしながら、高所得者の場合、財産形成への寄与度を50:50とするのが、必ずしも公平とは言えないケースも多いと言えます。たとえば、医師や公認会計士等の資格職、経営者等の個人の資質によって成功を収めた方、スポーツ選手や芸術家のような特殊な技能によって収入を得ている職業等です。
こういった特別な資格や能力により高収入を得られ、財産形成が行われたと言える場合には、2分の1ルールは修正されます。
『民法768条3項は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与額を定めるべき旨を規定しているところ,離婚並びに婚姻に関する事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないものとされていること(憲法24条2項)に照らせば,原則として,夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが,例えば,ⅰ 夫婦の一方が,スポーツ選手などのように,特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが,加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり,通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など,高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合,ⅱ 高額な収入の基礎となる特殊な技能が,婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて,婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには,そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ,財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。』
引用例:大阪高裁平成26年3月13日判例タイムズ1411号177頁
高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには2分1のルールが修正されるべきだとして、結論として医師であった当事者の寄与度を6割と認定しています。
『財産分与の額であるが、前示の一審原、被告の婚姻継続期間、本件離婚に至つた経緯、一審原告の年齢、双方の財産状態、婚姻中における一審原告の医業への協力の程度、子の扶養関係・・・等諸般の事情を考慮して、金二、〇〇〇万円が相当であると認める。
この点に関し、一審原告は、財産分与の額は夫である一審被告の財産の二分の一を原則とすべきであると主張する。なるほど、財産分与の本質は夫婦間における実質的共有財産の清算を中核的要素とするものと考えられるから、例えば、夫の財産が全部夫婦の協力により取得されたものでしかも双方の協力の程度に甲乙がないような場合であれば、財産分与の額を定めるにあたり夫の財産の二分の一を基準とすることも確かに妥当であろうが、本件においては、一審被告が前示の如き多額の資産を有するに至つたのは、一審原告の協力もさることながら、一審被告の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものと認められるうえ、一審原告の別居後に取得された財産もかなりの額にのぼつているのであるから、これらの点を考慮すると財産分与の額の決定につき一審被告の財産の二分の一を基準とすることは妥当性を欠くものといわざるを得ず、一審原告の主張は採用できない。』
引用例:福岡高裁昭和44年12月24日判例タイムズ146号142頁
資産形成は当事者の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものであることや別居後に取得された財産もかなりの額にのぼつていることから、財産分与約2億円の請求に土江、結論として2000万円の限度で財産分与を認めました。
3. 資産の多様性
高額所得者の場合には、預貯金等の典型的な財産の他に、様々な形で財産を分散させて保有していることがあります。また資産の内容も通常の評価方法を用いて一義的に評価が定まるものではないこともあります。
ア 自社株
高所得者の離婚の場合、会社を経営しており、自社株の財産分与における取扱いが問題となるケースも多いです。
婚姻前に会社を設立している場合、原則として株式は財産分与の対象になりません。もっとも、会社の維持・発展に、株式を保有していない側の配偶者の貢献が認められれば、財産分与の対象になることはあります。
したがって、そもそも会社設立が婚姻前の場合には、婚姻後の会社の維持・発展への具体的な貢献が認められるか否かがまずもって解決されるべき問題となります。
他方で、婚姻後に設立した会社の場合、原則として自社株は財産分与の対象になります。
多くは非行会社であり、株式に譲渡制限がついていますから、分与の方法(現物として分割するのか、精算金により分割するのか)を検討することになります。
また、非公開株式の評価は、一義的な評価が難しいため、その評価方法を巡ってシビアな問題が生じます。場合によっては、客観性のある第三者による評価レポートを取得することを検討する必要もあります。
イ 不動産の評価
換価の上で財産分与の対象にする場合には、夫婦それぞれができるだけ高い価格で換価することを目指すことになるので、不動産の評価の問題は生じません。もっとも、いずれかが不動産に住み続けたり、現時点で不動産を処分したくない事情がある場合には、不動産の時価を評価した上で、お金で精算する必要があります。
その際、不動産を取得する側としてはできるだけ不動産の評価額を低く見積もった方がよいですが、他方はできるだけ不動産を高く見積もった方が経済的に有利になるので、不動産の評価を巡って、厳しい対立が生じます。
通常の事件の場合は、双方が不動産について不動産会社の査定報告書を取得した上で、裁判官が双方の主張する評価額の間をとるような解決が行われることが多いと思われますが、不動産が投資用不動産がある場合等には評価額のぶれも大きくなりますし、金額自体が非常に大きくなるので、一定のコストをかけてでも、不動産鑑定士による鑑定をすることを検討するべき場合もあります。
なお、当該不動産が特有財産なのか共有財産なのか、当該不動産の取得についての夫婦感の寄与度はどれくらいなのかといったことも問題になります。
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