熟年離婚(同居期間20年以上)

熟年離婚(同居期間20年以上)

熟年離婚(同居期間20年以上)の増加・熟年離婚の特殊性・困難性

厚生労働省の統計によると、令和2年の年間離婚件数193,253件のうち、同居期間が20年以上の離婚は、38,981件に及びます。離婚総数のうち、同居期間不明のものは14,373件ですから、全体に占める同居期間20年以上の夫婦の割合は、約22パーセント以上に及びます。

仮に婚姻期間20年以上の夫婦の離婚を「熟年離婚」と呼ぶとすると、五組に一組は、熟年離婚であるということになります。

熟年離婚の件数は、かつては少数でした。たとえば、昭和48年の離婚総数は111,877件であるところ、同居期間が20年以上の離婚は、わずか5,925件にすぎません。同居期間不明のものは495件ですから、同居期間がわかっている離婚総数に占める割合はわずか5%程度ということになります。

熟年離婚の割合は、昭和60年頃から増加をはじめ、現在の水準まで右肩あがりに推移してきました。

厚生労働省 令和4年度 人口動態統計特殊報告 図6 離婚の同居期間別構成割合の年次推移
(厚生労働省 令和4年度 人口動態統計特殊報告 図6 離婚の同居期間別構成割合の年次推移 -昭和25~令和2年-)

熟年離婚の割合が増えた理由は、日本人の寿命自体が伸びた影響ももちろんありますが、それだけではないと考えられます。
共働き世帯の増加、女性の社会進出、就業機会の増加、価値観の多様化等が背景にあると思われます

さて、20年以上も生活を共にした夫婦関係の解消は、通常の離婚よりも複雑な問題をはらむことがあります。長年生活を共にした夫婦には、膨大・複雑な歴史があり、いざ離婚となると、当事者から、細かく膨大な主張が交わされることも多いです。
熟年離婚事件は、ポイントを見誤ると、長期化する傾向があります。

もっとも、離婚を決意した方は、新しい生活を歩みたいと決意し、たいへんなご決断をなされたはずです。限りある人生、離婚紛争に時間をとられてしまうのは、第三者の目から見ると、よいことであるとは思われません。
他方で、新しい生活をはじめるにあたり、先立つものは必要であり、ポイントを絞った主張・立証により、適切な離婚給付(財産分与や慰謝料)を得ることも肝要です。

熟年離婚事件においては、解決のスピードと経済的な納得のバランスをいかにとっていくのかがポイントとなります。
当事務所は、依頼者様の限りある時間を預からせていただくことを自覚し、解決内容はもちろんのこと、スピード解決にも注力しています。

退職金の財産分与

熟年離婚の場合、退職金が財産分与の対象となるか否かは重要な問題となります。
夫婦関係にあった期間が長期になると、退職金の額は数百万円から一千万円を超えるケースも珍しくありません。

退職金は、賃金の後払い的な性格を有しておりますので、婚姻期間中に相当する部分の退職金については、財産分与の対象になるという考え方が一般的です。賃金の後払い的性格というのがどういうことかというと、退職金というのは、在職期間中の賃金を退職時に後払いするという性質を有するということです。そうすると、婚姻期間と在職期間がかぶっている部分についての退職金は、夫婦が共同して形成した財産とみることができますので、財産分与の対象になるということになります。

退職金を財産分与の対象とする場合の金額の算定の仕方については考え方がわかれているところです。
一般的にいえば、まず、財産分与の基準となる時点(多くの場合、別居時点)において、自己都合で退職した場合の金額が算定できる場合は、同金額に、在職期間中、婚姻関係にあった期間の割合をかけあわせて算出することになります。

たとえば、1990年から勤務を開始、1995年に婚姻し、2020年に別居した場合において、2020年に自己都合退職した場合の退職金が1000万円というケースについて考えてみます。

計算式としては、 
1000万円 × 25(婚姻期間)÷ 30(在職期間)≒ 833万円
 が財産分与の対象となる退職金と算定されます。

他方で、会社の退職金規定上、別居時点の退職金の金額が算定できず、将来の退職時点の退職金の金額しか算定できない場合は、退職金の金額のうち、婚姻期間に相当する金額から、中間利息を控除(簡単にいうと、将来もらえるお金を現在の価値に引き直すようなイメージです)した金額を財産分与の対象とする、という考え方が一般的ではないかと思われます。

退職金の仮押さえを検討するべき場合

ケースによっては退職金の確保のために、保全処分という裁判手続きを利用するべき場合があります。

たとえば以下のケースが考えられます。

想定設例

夫が浮気をはたらいていることが判明し、妻側は離婚を検討している。
半年前に別居をはじめたが、どうやら夫は浮気相手と同棲をはじめているようである。
夫は59歳で、近く、退職金の支給が予定されているが、妻としては離婚が成立するまでに退職金を、夫が不貞相手につぎ込むなどして消費してしまわないか心配している。

このようなケースでは、いざ離婚が成立した際に、分与を求めるべき退職金が消えてしまっている危険がありえますので、退職金の仮差押えが検討されるべきです。
仮差押えとは、その名のとおり、財産を仮に差し押さえるということです。あくまで仮の手続きなのですが、仮差押えの効力が生じることにより、夫は退職金が支給されても、これを自由に処分することができなくなります。
仮差押えを行った上で、権利を保全した上で、夫との離婚条件の交渉を行っていくことになります。

年金分割

専業主婦の方はもとより、現代においても、日本は、夫婦双方の収入に大きな差があるのが一般的です。また、妻側は、子育て期間においては一時退職等されていることも多いです。
そうした場合に、離婚をしてしまうと、妻側がこれまで納めてきた厚生年金が少なくなり、年金受給額が著しく低額になってしまうという問題があります。婚姻期間が長期に及ぶ場合には、年金分割の手続きは、非常に重要になります。

年金収入と婚姻費用

すでにリタイアし、年金生活を行っている場合の婚姻費用をいかに考えるべきかということも論点となります。
年金生活者であっても、別居後から離婚までの間の婚姻費用の分担額は問題となります。

そして、いわゆる婚姻費用算定表における婚姻費用・養育費の金額の算定には、収入を得るために職業費(被服費、交通・通信費、書生費、諸雑費、交際費等の給与所得者として就労するために必要な経費のこと)が考慮されていますが、年金所得には職業費がかかっていません。そこで、年金生活者の場合の婚姻費用は、算定表をそのままあてはめて算定することはできずに、一定の修正がなされて婚姻費用が算定されることになります。

具体的には、職業費割合を割り戻して基礎収入を算定することになるので、年金所得の場合には、同じ額面の給与所得よりも、多めの婚姻費用が算出されることになります。

相続に与える影響

熟年離婚の場合、離婚によって相続関係に与える影響についても考慮すべき場合もあります。 離婚によって、推定相続人は変化するでしょうか。

民法では、相続人は以下のルールによって決まることになっています。

ルール①
配偶者は常に相続人になる。
ルール②
直系卑属(子ども・孫等)がいれば当該直系卑属のうち親等の近い方が相続人になる。
ルール③
直系卑属がいなければ、直系尊属(親・祖父母)のうち、親等が近い方が相続人になる。
ルール④
子どもも親もいなければ、兄妹が相続人になる。

配偶者の有無によって、配偶者以外の相続人自体が変化することはありません。
ですから、たとえば、子がいる場合には、離婚しても、子どものみが相続人となります。しかしながら、当然のことながらご自身は相続人から覗かれることになりますし、その他の相続人の法定相続分にも影響を与えることもあります。その結果として相続税の額にも影響を与えることもあります。
純粋に経済的な利害だけを考えると、相続を見越して離婚に踏み切るか検討すべき場合もあると思われますので、特に高齢期の離婚の場合は、多面的な検討が必要になります。

まとめ

本ページでは、熟年離婚の場合に問題となるいくつかの論点を紹介しました。
婚姻期間が長期に及ぶ場合、離婚給付は多額になる傾向にあり、より慎重に各論点について検討する必要があります。専門家に相談しないと気がつかない論点もありますし、また、同じ論点でも個別具体的な事案の特徴によって結論が正反対になることもあります。離婚をご検討の場合は、まずは当事務所の法律相談をご利用下さい。

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