借地契約の合意解約と建物買取請求権
Q:借地上にある建物を母から相続しましたが、建物には誰も住んでいませんし、私が住んだり誰かに住まわせたりする予定もありません。そこで、毎月の借地料がもったいないので、借地関係を終了させたいと考え、地主と話し合って、借地契約を終了させました。借地契約が終了してからしばらくして、地主から、建物を私の費用で撤去せよ言われてしまいました。業者に建物の解体費用を見積もってもらうと、100万円以上はかかるといわれてしまって困っています。借地契約を終了させるときに、地主の方に建物を買い取ってもらうことが認められる場合があると聞いたことがあるのですが、本件のような場合に地主に建物を買い取ってもらうことはできるのでしょうか。
A:争いがありますが、建物買取請求権が認められる可能性はあります。
1 建物買取請求権とは
土地を借りた人(借地権者)は、借りた土地の上に建物を建てて所有することができますが、借地契約が終了する場合には、借りたもの(借地)を元通りにして(原状回復して)、貸主に返還するのが、民法上の原則的な取扱となります。
しかし、そうすると、借地権者が建物を建てる等して借地に投下した資本が無駄になってしまいます。また、せっかく建てた建物等を取り壊して原状回復させることは、社会全体からみてもマイナスです。
そこで、借地借家法は、このような不都合を回避するために、建物買取請求権の制度を設けています。
2 本件における建物買取請求権行使の可否
建物買取請求権には、第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を取得した場合において第三者に認められる第三者の建物買取請求権(借地借家法第14条)もありますが、本件において問題となるのは、法13条による建物買取請求権です。
法13条の建物買取請求権は、「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないとき」に発生すると定められています。
本件は合意により借地契約が終了しているので、条文はそのままはあてはまりません。
それでは、標記のケースのように、合意解約によって借地契約が終了する場合には、建物買取請求権は認められないのでしょうか。
前提として、合意解約を行う場合に、当事者間において建物買取請求権について合意がなされた場合には、その合意に従うことになりますから、まずは当事者間の合意の内容を探求し、建物買取請求に関し、明示乃至黙示の合意がないかを見極めます。
問題は、建物買取請求権についてなんら合意が認定できない場合です。
この場合に、借地借家法13条を類推適用し、建物買取請求権の行使を認めることは可能でしょうか。
古い裁判例は、建物買取に関する特段の合意が存在しない限りは、買取請求権の放棄・建物の収去が前提とされているなどとして、建物買取請求権の行使を認めないものが多いです(最判昭和29年6月11日判タ41号31頁等)。
しかしながら、借地借家法が建物買取請求権を認めた理由は、借地人の投下資本回収の確保と社会経済上の不利益回避です。こういった借地借家法の趣旨から考えると、合意解約による借地契約終了の場合と期間満了による借地契約の終了の場合とを区別する合理的な理由は見当たりません。
学説にもそのような見解が多数であり(コンメンタール借地借家法第4版104頁)、また、合意解約の場合も建物買取請求権を認めることを前提とする裁判例もあります(札幌地判昭和40年4月26日判タ176号191頁)
以上のことからすると、合意解約の場合においても建物買取請求権が認められる可能性も十分に存するものと考えます。
(弁護士 池本直記)
(参考)
借地借家法
(建物買取請求権)
第13条
1 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。
(第三者の建物買取請求権)
第14条
第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。