不貞を理由とする
慰謝料について
不貞を理由とする慰謝料請求の要件
不貞を理由とする慰謝料請求権の要件として、主に、①加害行為があったこと 、②相手方の故意又は過失が問題となります。
1. 加害行為があったこと≒不貞があったこと
法律上の「不貞」とは、基本的には、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことと考えるのが一般的です。
もっとも、そもそも「不貞」が不法行為となるのは、それが婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからです(最三小判平8.3.26民集50巻4号993頁)。
そうすると、婚姻共同生活の平和の維持は、必ずしも肉体関係があった場合にのみ侵害されるわけでありませんから、婚姻外での異性関係は、肉体関係を伴わないものであったとしても、不法行為となる余地がないものではありません。あくまで、不法行為として慰謝料請求の対象となるかどうかは、当該異性関係が類型的に婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性のある行為か否かを基準に判断されるべきといえます。
したがって、理論的には、必ずしも性行為が行われていないケースにおいても、婚姻外の異性との親密な関係を理由に慰謝料請求が認められる可能性はあります。
しかしながら、やはりあくまで肉体関係が典型的なケースですし、不法行為と言えるほどの親密な関係を立証できる多くのケースでは、肉体関係の立証にも成功すると思われるので、あくまで理論上の問題かもしれません。
2. 相手方の故意又は過失
不法行為が成立するためには、権利侵害について故意又は過失があることが必要であり、不貞慰謝料事案では、「不貞行為当時に既婚者であったこと」について、知っていたか、又は通常の注意を払えば知ることができたと言えることが必要です。
配偶者を相手方に慰謝料請求を行う場合には、当該配偶者は、当然に故意があると言えますから、この要件が問題となるのは、配偶者の不貞相手に対して慰謝料請求を行う場合です。
配偶者と不貞相手との関係が、職場の上司・部下の関係や以前からの知人である場合には、既婚者であることを争われることは少ないですが、近年では、マッチングアプリを利用して不貞相手との関係を持ったという事案が非常に多く、その場合は、既婚者であったことの認識について、激しく争われることがあります。
「既婚者であることを知らなかった」という弁解が認められるケースは、過去の裁判例をみてもかなり多く、不貞相手に対する慰謝料請求においては、この弁解を潰すための証拠収集が重要になってきます。
不貞の証拠としてどのようなものが有用か
慰謝料請求を行うにあたって、客観的証拠がなによりも大切になります。
実務上よくみる証拠としては、次のようなものがあります。
- ラインやフェイスブックメッセンジャーのやりとり
- 探偵の報告書
- Instagram、ツイッター等のSNS
- ラブホテルのレシート
- ドライブレコーダー
これらの証拠は、なにがあれば十分で、どれが不十分かを形式的に判断できる性質のものではありません。不貞の事実認定は諸々の証拠を総合的にみて判断されるものだからです。できるだけ多くの関連証拠を集め、集めた証拠を弁護士に見せて、個別具体的な判断を仰ぐのがよいと思われます。
単独の証拠で十分というケースはそれほど多くなく、いわば合わせ技一本というような形で、不貞の認定に至る事も多いので、証拠は多ければ多いほどよいです。たとえば、特定の日付のラブホテルのレシートと、特定の同じ日付に特定の女性と会っていたことをうかがわせるSNSの投稿との合わせ技で不貞の認定に至る等です。
探偵による調査報告書は、詳細に調査がなされていることも多く、これのみで不貞の立証に十分なこともありますが、注意点もあります。
まず、調査費用が高額になりがちという問題があります。調査費用の料金システムは探偵会社によって大きく異なりますので、依頼前にきちんと料金システムについて確認し、見積を依頼することが肝要です。
また、「不貞がわかるまで徹底的に調査して欲しい」というような依頼だと、調査費用は青天井に高くなってしまいます。
かかった調査費用を相手方に対して請求できるか否かについては裁判所の定まった見解がないところですし、また、ほとんどの事案では、全額の調査費用の賠償は認められません。
事前に見積をしっかりとる、漫然と配偶者の行動を監視する依頼にするのではなく、怪しい日(たとえば、自分が実家に帰ったり、会社の出張等で家をあけることが決まっている日など)にあたりをつけて、スポットで特定の日を集中的に調査してもらう等の工夫をして、調査費用を節約する工夫が必要になると思われます。
また、探偵の調査報告書の質は、ピンキリであるという印象をもっています。ある程度の実績があり、調査になれた探偵会社に依頼するのが無難と思われます。
不貞慰謝料の金額の相場
不貞慰謝料の金額に関する公的な統計は存在しませんが、裁判例を分析した裁判官執筆の論考が参考になります。
東京家庭裁判所の平成24年4月から平成25年12月までの裁判例を分析した論考(ケース研究322号26頁「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」神野泰一)によると、請求額の平均は579万円であるところ、請求が一部でも認容されたケースの平均認容額は153万円(最も多い認容額は100万円)とされています。
また、岡山地裁・家裁管内の平成14年7月から平成20年3月までに言い渡された不貞慰謝料請求訴訟の判決31例を分析した論考(安西二郎「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」(判例タイムズ1278号45頁))によると、慰謝料が認定された27件の最低額は80万円、最高額は600万円、平均額は216万円であるとされています。また、「原告が夫の事案の平均額は184万円、妻の事案の平均額は234万円である」「離婚事案の平均額は208万円(うち原告が夫の事案は193万円、妻の事案は223万円)、婚姻破綻事案では234万円(うち原告が夫の事案は183万円、妻の事案は249万円)、婚姻継続事案では140万円である」といった分析もなされています。
以上の参考文献からすると、個別事情によって大きく異なる不貞慰謝料について、あえて「不貞慰謝料の相場」を説明するとすれば、150万円~250万円程度と考えるのが妥当かと思われます。
なお、以上はあくまで裁判事例の研究にすぎません。裁判に至る前に交渉によって合意される慰謝料の金額は、大きく上振れすることもあります。交渉によって合意に至る場合に見込める慰謝料の金額は、相手方の職業、収入、相手方が既婚者か否か、相手方が大ごとにせずに解決したがっている度合い、相手方の価値観等、といった種々の変数によって変わってきます。これらを見極めながら、もっとも依頼者にとって価値ある解決を目指すのが代理人弁護士の役割と言えます。
不貞相手に対する慰謝料請求権と
配偶者に対する慰謝料請求権との関係
不貞相手に対する慰謝料請求権と配偶者に対する慰謝料請求権の関係は法律上どのように位置づけられているでしょうか。たとえば、不貞による慰謝料が200万円が相当であると仮定して、不貞相手から200万円の慰謝料を回収したあとに、配偶者に対しても重ねて慰謝料を同じ額請求することができるでしょうか。
一般的には、請求者Xの配偶者をA、配偶者の不貞相手をYとすると、AとYが共同不法行為によってXに損害を与えたという風に理解されています。
そして、共同不法行為の場合の、加害者それぞれの損害賠償債務は、不真正連帯債務になると考えられています。
不真正連帯債務とは、複数の債務者が同一内容の給付について全部の履行をしなければならない義務を負い、かつ、一債務者の弁済のよって他の債務者を債務を免れるが、債務者間に主観的な共同関係がなく、弁済を除いて債務者の一人に生じた事由(たとえば、免除等)が他の債務者に影響を及ぼさない債務のことをいいます。
要するに、理論的には、Aが100万円を賠償したら、Yに請求できる慰謝料は100万円分減るということです。
これは理論的にはこうなるという話なので、実務上は様々な事情から、上記にように単純に処理されないことも多いです(AからもYからも満額に近い慰謝料の賠償を受けることもあります)。 役割と言えます。
同性パートナーと不貞慰謝料
同性愛は、二つの場合で、問題になり得ます。
まずは、同性カップルが婚姻類似の生活を送っていた場合に、カップルの他方が第三者と性行為類似の関係をもった場合に、不法行為となるかという問題があります。
具体的に言うと、たとえば、男性Xと男性Aが婚姻類似の生活を送っている場合に、男性Aが男性Yと性行為類似の行為を行った場合に、XからYに対する慰謝料請求が認められるか、という問題になります。
これについては、一般的には、同性パートナーであっても、不貞慰謝料を行うことはできると考えられています。
古い裁判例においてはこれを否定したものも存在はするようですが、近年の裁判例では、同性カップルであっても、婚姻類似の関係にある場合には、不法行為の成立を認めています。
裁判例としては、たとえば、東京高裁令和2年3月4日(判時2473号47頁)は、同性カップルXYにおいて、YがAと性的関係を持ったことを理由に、XからYへの損害賠償請求について、当該同性カップルの関係を、「他人同士が生活を共にする単なる同居ではなく、同性同士であるために法律上の婚姻の届出はできないものの、できる限り社会観念上夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたものであり」「男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあった」と認定した上で、不法行為の成立を肯定しました。
次に、不貞行為が同性間で行われた場合も、不法行為が成立するか否かが問題となります。
具体的に言うと、たとえば、男性Xと女性Aが夫婦であった場合に、女性Aが女性Yと性行為類似の行為を行った場合に、XからYに対する慰謝料請求が認められるか、という問題になります。
これについては、不貞行為が同性間で行われた場合も同様に、不法行為が成立すると考えられます。同性間の性的行為であっても、婚姻共同生活の平和の維持を破壊することはできるからです。
たとえば、東京地裁令和3年2月16日判時 2516号81頁は、次のように指摘し、不法行為の成立を認めました。
「不貞行為とは、端的には配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるが、これに限らず、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と解するのが相当であり、必ずしも、性行為(陰茎の挿入行為)の存在が不可欠であるとは解されず、夫婦共同生活を破壊し得るような性行為類似行為が存在すれば、これに該当するものと解するのが相当である。
そして、同性同士の間で性行為あるいはその類似行為が行われた結果として、既存の夫婦共同生活が離婚の危機にさらされたり、離婚に至らないまでも形骸化するなど、婚姻共同生活の平穏が害される事態もまた想定されるところである。」引用:東京地裁令和3年2月16日判時 2516号81頁
まとめ
本ページでは、不貞を理由とする慰謝料請求の際に問題となるいくつかの論点を紹介しました。
他にも不貞慰謝料を巡る論点は膨大にあります。また、同じ論点でも個別具体的な事案の特徴によって結論が正反対になることもあります。
不幸にも、不貞を巡るトラブルに巻き込まれた場合は、まずは当事務所の法律相談をご利用下さい。
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